元遊郭の宿「旅館すずめ」はおもてなしの心あふれる宿だった!!

かつて、別府駅東口にあった行合町遊郭。その跡地に残るのが、「北部旅館街」です。戦後の町並みの面影を残す旅館街には、元遊郭の旅館が3軒残っています。今回は、その中の1軒「旅館すゞめ」をご紹介。気になる元遊郭の宿の内部とは……?

素泊まり2千円台!安すぎて逆に不安な北部旅館街

別府駅東口から線路沿いを北に約100メートル。うっかりしていると見過ごしてしまいそうな普通の住宅街の路地に、「北部旅館街」のアーチがかかっています。アーチの通りは、数十メートルの短い距離に3軒の小さな旅館があるだけで、「旅館街」と呼ぶにはあまりにも閑散とした通りです。

旅館すゞめは、旅館街のアーチから最も近い場所にあり、よく手入れされた鉢植えが目を引く、こじんまりとしていながらも小ぎれいな宿。

北部旅館街の宿は総じて古い建物をベースにしているため、玄関の軒高が極端に低く、まるで小人の家のよう。植木の緑で隠れてはいますが、木の桟が施された大きな窓は、かつてこの奥に遊女がいたんだろうなぁ、と感じさせる造りです。

玄関の朽ちた木のひさしに、建物の年季を感じます。

一泊の料金は、驚きの2,500円!!しかし、北部旅館街の宿はどこも2,000円ぐらいが相場。安すぎて逆になんかあるんじゃないか?といぶかしんでしまうほどの低価格です。元遊郭というイメージも相まって、体面上は普通の宿として営業してはいるけれど、ホントは他のサービスを提供していたりして……?

女将さんのこだわりが詰まった清潔感あふれる玄関

そんな一抹の不安を感じつつ玄関を入ると、そこには建物外観同様に掃除が行き届いた気持ちの良い空間が広がっていました。正面の床の間には、七宝焼の富士山の額と、立派な生花が飾られています。

松と大輪のユリが、正月らしい華やかな雰囲気。赤と黄色のセンリョウのワンポイントが、目にも鮮やかで、当初の予想に反し、玄関からはかなりまっとうな宿の心配りが感じられます。

旅館すゞめの女将さん。御歳80歳。10年前にご主人を亡くされてから、一人でこの宿を切り盛りされています。生花は女将さんの手によるもの。

旅館すゞめが遊郭から旅館に鞍替えしたのは、売春禁止法が施行された昭和32年。女将さんが嫁いでこられたのは昭和38年ごろなので、遊郭として営業していた当時のことは全く知らないそうです。

北部旅館街には、すゞめと同じように遊郭から安宿に商売替えした宿がかつては8軒存在したんだとか。しかし1軒また1軒と高齢化で宿を畳み、今はこの宿を含めた3軒を残すのみとなってしまいました。

玄関を入ると、1階は玄関のすぐ脇に宿の人の居住スペースと台所があり、その奥にトイレとお風呂、そして客室のある2階への階段が続きます。

通路の入口にかけられた暖簾は、女将さんが子供の頃に使っていた長襦袢。はなやかな柄が、お正月にぴったりだからと、毎年お正月にはこの暖簾にかけ替えているんだそうです。

玄関の横の大きな下駄箱。大工さんに施工してもらったそうですが、銭湯のロッカーのカギを転用するアイデアと、部屋番号のプレートはオリジナルです。

部屋番号のプレートの文字は、女将さんの弟さんによるもの。すゞめにちなんで、カワイイ竹の絵があしらわれています。

また、キーホルダーとしてつけられている竹細工の鈴は、皇太子妃だったころの美智子様が別府においでになった際、おみやげとして購入された物と同じなんだそうです。

レトロファン歓喜のモザイクタイルにクラクラ!

暖簾をくぐると、「ゆったりの湯」と書かれたプレートのかかった浴室の扉が。ステンドグラス風のステッカーから透けて見える、浴室の淫靡なピンクの明かりが期待をそそります。

浴室は貸し切り専用で、中からカギがかけられるようになっています。昔懐かしのドアノブを引いた扉の中には…

ごらんください!この豆タイルに埋め尽くされた小宇宙!!

床と浴槽はブルー、そして壁の一面にはピンクを基調とした岬の灯台の風景が、モザイクタイルで描かれています。床の装飾などは、先代から引き継いだもので、何と50年以上の歴史があるそう。

実は、すゞめには温泉がありません。温泉地別府で温泉が無いというのは、やはり大きな足かせとなっているようですが、その欠点を払拭すべく、先代からお風呂の内装に力を入れているんだそう。

ランプシェードもアンティークの粋。

別府は温泉ならどこにでもあるので、逆にこのタイルアート目当てですゞめに泊まるというのは、むしろ「アリ」ではないでしょうか。タイル装飾好き・レトロ好き必見の浴室です。

博物館級の初期温水便座も超必見!

トイレも女将さんご自慢というので、見せていただくと…

世にも珍しい「個室に2つ並んだ洋式の便座」!!

女将さんの好きなブルーの便器は、微妙に左右のデザインが違っており、神社の狛犬のようなアシンメトリーの美学さえ感じられます。

さらに珍しいのは左側の便座。おそらく博物館なんかでしかもう見られないであろう、ウォシュレット登場前の温水便座です。この突起からお湯が出てるんですね。でもこの位置だと、お尻の穴に当たらないような…

この大げさなダイヤルで、温水の温度調節をしていました。メーカーは信頼のTOTO製。メーカーの人も「初めて見た!」と驚くぐらいの珍品です。

客室も気配りいっぱいのおもてなし空間

2階に上がる階段の脇には、素泊まり宿の必需品電子レンジが置かれています。ピンクのコイン式電話も、今となっては懐かしいですね。

電子レンジの台の下には、割り箸やビールグラス、マッチ、そしてサービスのチョコレートまで置かれています。2,500円で気配りしすぎじゃない??

しかもマッチはすゞめのオリジナル。玄関の鉢植えといい生花や暖簾といい、すゞめの女将さんは客商売のなんたるかを非常によく分かってらっしゃる。建物は小さいし古いけど、旅館のおもてなしの心がここにはあります。

客室のある2階へは、古い建物にありがちな狭くて急な階段を上ります。女将さんお一人で、この階段を上ったり下りたりしておられるんだなぁ……大変。

2階には客室が7部屋ありますが、現在使われているのは5部屋です。

階段から一番近い場所にある2号室。現在連泊されているお客様がおられるそうなのですが、「今出かけているから」と中に入らせていただくことができました。

シミだらけの壁などから否応なしに建物の古さが伝わってきますが、掃除は行き届いているし、シーツも真新しく、廃屋のようなドンヨリとした空気感は一切ありません。

備品は冷蔵庫とテレビ、エアコンも全室完備です。しかもケーブルテレビまで引かれているので、連泊してテレビ見ながらウダウダ……というのも、贅沢な楽しみ方だと思います。

「うちは温泉がないからねぇ。あと、仕事で連泊するお客さんも多いから、ケーブルテレビがあると退屈しなくていいって」と女将さん。

こちらの部屋のお客さんは半月近く連泊されているそうで、「食べ物が偏るから」と、お漬物のサービス。2,500円でそんなことまでしなくていいのに…… 

同じような造りの隣の部屋。

そしてこちらは洋間。重厚感あふれる木目調の壁やカーテンなど、わたしの子供の頃の「ちょっとお金持ちな同級生の部屋」感が溢れ出しており、なんならもうここに住みたいぐらい。

ソファーやテーブルはむしろ一周回っておしゃれですらあります。

洋間は男性客に特に人気があり、こないだまで工事の作業員さんが半年近く泊まっていたそうです。

ちなみに、すゞめの浴衣は宿のオリジナルです。作った当時としては、かなり高級な綿の布を奮発して使ったそうで、たしかにそう言われてみれば厚みがあっていい布地ですね。

ちなみに、2階のトイレも、女将さんの好きなブルーの便器。壁も紺色だし、ほんと女将さんのこだわりはすごいなぁ……

こだわりの原動力は女将さんの自己満足

「もうね、自己満足でやってます。自分が気持ちいいと思うことをやってる。それにお客さんが賛同してくれたらうれしいわね」と、女将さん。

玄関の鉢植えは今、サザンカが見頃。桜の季節にはヤマブキが、夏にはデュランタと、一年中を通して何かしらの花が咲くように、四季の植物を植えているそうです。

まとめ

皆様もおもてなしの心あふれる、旅館すゞめにぜひおいで下さい。一週間泊まっても二万円以下!別府駅や観海寺温泉まですぐの好立地なので、旅の拠点に、ビジネスにと、いろんな使い方ができる宿だと思います。

旅館すゞめ

住所 大分県別府市駅前本町8−6
電話番号 0977-21-1504
駐車場 あり

この記事を書いた人
フジイサナエ

1977年大阪生まれ。温泉と酒をこよなく愛し、20年近く暮らした東京から、2017年春に別府へと移住してきました。別府の酒大使としても活動中。
オフィシャルサイト→https://office-fujii.info/