南国ちっくなヤシの木が川沿いにある付近、異様なオーラを放つ理容室があります。
そこは知る人ぞ知る有名な珍スポット「酒井理容店」です。
店の前には、くるくる回る床屋さんのアレ。赤・白・青の模様が通常ですが、こちらのお店の前では仮面が回転中。
扉を開ければ、隙間なくびっしり仮面で埋め尽くされた異世界が出現します。
酒井氏だけに見えている「そのモノ本来のカタチ」
壁にも床にも、まさに所狭しとぎっちり並んだ仮面の数々。いくつかるのか、店主であり仮面の作者である酒井氏も把握していないそうです。
豊かな表情をたたえ、どれひとつとして同じ顔のない仮面たち。すべては“拾い物”から作られています。
流木、角材、柱、発砲スチロール、軽石、浮き、お茶碗、お盆、つぼ、タイヤ、バドミントンの羽などなど、酒井氏にかかればなんでも素材となるんですね。
お盆から作った仮面。「美人だろ?」と、相当気にいっている様子です。
落ちてるものの方から語りかけてくることもあるし、まず拾ってきて置いておくとカタチが見えてくるものもあると語る酒井氏。
「いいのが浜辺に流れてくると、立ち止まってしばらく眺めてみるんだよ。流れてこねぇのは銭くらいだなぁ、はっはっ」と、お茶目に教えてくれました。
作るのではなく、本来あるべき形を掘り出すという酒井氏。彼にだけは、そのもの本来の姿が見えているんですね。
これぞ真の芸術家。ガラスの仮面の「紅天女」に出てきた仏師のようで、もう神聖にすら見えてきます。凡人の筆者には、ただただまぶしい存在!
「それでも思い通りに仕上がることはない、予想外にできあがるんだよな」とのことでした。
夜は仮面とおしゃべりタイム
やはり芸術家は夜行性の様子。創作活動は夜に熱が入るといい、夜通し作り続けることも少なくないそうです。
夜、ひとり店に来てお面に囲まれそれぞれと会話をするのも楽しい時間。お店の仮面たちは、昼とは違う顔を見せてくれるんですって。
仏像からは「いつまでココに置いておくのか?早く寺に連れてけ」とせがまれます。
一番お喋りなのはこちら、サルの像。
作りかけのお面たちは「早くしてくれ!」と訴えてくるそうです。
「仕上がりは神のみぞ知る、紙だけになぁ!ははは」
紙を貼って仕上げる仮面は、貼り終わったら神にお願いするのみ。乾かないとどんな皺ができるか、どんな風合いになるのかわからないといいます。
どんな紙を使っているのか聞いてみると「紙は言われん!秘密」と教えてもらえませんでした。気になるーーー!!
漂着物のストックもたくさんあるし、お面もたくさんある店内。奥さんからは、足の踏み場がない!と怒られるそうですが……。
当の奥さんと話をしたら、「私はこのもじゃもじゃしたのが好きなんよ」と教えてくれました。すごく理解ある、優しい奥さんなんじゃないかなー。
35年間続く創作活動
このお面が、酒井氏の最初の作品。
宇佐神社に参拝の際、ガラスケースに入ったお面を見て「自分にも作れるのでは?」と思ったのが、仮面作りを始めたきっかけだそうです。
お面の裏には「S57」の文字。昭和57年は西暦1982年なので、なんと筆者が1歳の時から、この芸術家はひっそりと仮面作成を開始していたんです。驚き!
「ひとつ作って難しい、もうやめようと思った」という酒井氏、しかしやめることなく、今でも創作活動を続けています。
テレビで特集されたり、大分の情報誌に取り上げられたり、著名なカメラマンが訪れたり、舞台関係者がお面を借りにきたり。
店内にはその時の写真や記事がさりげなく置いてあります。珍スポットトラベラー・金原みわさんが店主に送ったお手紙も見せてくれました。
いろんな人を惹きつけて虜にする魔力が渦巻います!
まとめ
神に魅入られた人とか、孤高の天才とか、真の芸術家とか。そんな漫画みたいな言葉がこれほど似合う人もいないんじゃないでしょうか。
作品について嬉々としてしゃべる様子が、こういっちゃアレだけど本当にカワイイんですよ。無邪気な少年のような表情。これは惚れちゃいます、夫よごめん!
まだまだ作りかけのものも多く、新しい作品が誕生するはず。定期的にお邪魔しに行きます。
扉を開けるのにかなりの勇気がいるお店。けれど、この不思議な妖気に包まれた空間を体感しないのは、あまりにももったいない。
ぜひ訪れて、魂のこもった仮面を鑑賞しつつ、店主おしゃべりを楽しんでみましょう!
酒井理容店
住所 | 別府市松原13-7 |
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定休日 | 定休日 月曜日、第3日曜日 |
べっぷる編集長。ビーベップ編集長。フリーランスのライター・編集。夫・娘・犬と一緒に別府へ移住してきました。PR記事や取材記事、キャッチコピーや企画・構成・編集も請け負っています。
ブログ→泥ろぐ http://doronumako.com